大相撲九州場所(定員6980人)の入場券が28年ぶりに完売した。福岡国際センターのチケット売り場には「満員札止め」の掲示があり、相撲ファンからは「九州なら入場券が買えると思っていたのに」とため息がもれる。
毎年、同センター内で1500枚ほどの入場券を委託販売している大相撲売店「喜久家」の代表の清水のり恵さんは、「コロナからなかなか客足が戻ってきていなかったが、今年は初めから勢いが違った。大の里さんがいるから、もう一回見に行こうかってなっていると思う」。
前売りの開始は秋場所中の9月14日。その場所で大の里(24)が優勝し、デビューから所要9場所という歴代最速での大関昇進を決めた。九州場所はまだ大銀杏(おおいちょう)が結えない「ちょんまげ大関」を見る、またとない機会だ。清水さんに話を聞いている最中にも、「来年のをちょうだい」という客がやってきていた。
佐渡ケ嶽広報部長(元関脇琴ノ若)も盛況の理由について、「新しい顔が出てきた。大の里や尊富士ですね」。今年春場所で110年ぶりの新入幕優勝を果たした尊富士(25)の名前もあげた。
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大の里や尊富士はスケールの大きな相撲を見せ、「大尊時代の到来なるか」の声もあがるようになった。これまでもファンはヒーローの登場にいち早く気づいてきた。
大相撲には満員御礼が666日(1989年九州~97年夏場所)続いたという記録がある。「若貴ブーム」に乗ってのものだった。89年九州場所と言えば、貴乃花(当時は貴花田)の新十両場所、若乃花(若花田)は幕下だった。そして2人で年6場所中4場所で優勝した97年、記録は途切れた。
当時の朝日新聞の「天声人語」には、「『満員御礼』の回数は誰か新しいヒーローが登場すると増え始め、そのヒーローの強さが頂点に達するころから次第に減っていく。そんな傾向がある」と、昔の例もあげながら書かれている。
九州場所は他の場所に比べて集客しにくいと言われてきた。周辺の人口や経済規模の差に加え、東京(同1万1千人)、大阪(同約7500人)、名古屋(同約7500人)の各場所と違ってチケットを営業して売ってくれる「茶屋」がないことが理由とされてきた。
九州場所担当の三保ケ関親方(元幕内栃栄)によると、他の場所だと茶屋が15日間で2万~4万枚ほどを販売してくれる。九州は館内で売店も営む喜久家の1500枚ほどをのぞき、協会が自力で売らないといけない。ちょうどこの差分ほどが売れ残ることが多かったという。
また、インバウンドについても、「東京はだいたい15万枚のうちのおそらく3、4万ぐらいが外国人の方。九州は1万にいかないくらいだと思う」。
コロナ前の2017年に14日間札止めになったこともあったが、売り切るには至っていなかった。そんな中、今年新たに九州場所担当部長になったのが福岡県出身の浅香山親方(元大関魁皇)だった。
数年前、場所中に福岡の街を歩いていて、「あれ、なんでここにいるんですか」と声をかけられたことがあった。「いま場所ですよ」と言うと「え、始まってるの」と驚かれた。
部長になり、PR活動に励んだ。「これまではとてもそんなタイプじゃないと断っていた」というプロ野球の始球式でソフトバンクの本拠地に。県議会の議場であいさつし、企業へのあいさつまわりにも積極的に出た。
福岡トヨタは3日目のイス席200枚を今年新たに購入し、社内公募に応じた社員が観戦した。トヨタ自動車九州を訪れた浅香山親方が「ぜひ九州場所を盛り上げてほしい」とお願いし、トヨタ関連会社に話が広がったという。福岡トヨタの広報担当者は「魁皇関の存在が一番。一番安い席ですけど、満員にしたいという思いでした」。相撲協会によると、団体での観戦も過去最高の数字だったという。
新星の登場による盛り上がりを、地元の英雄がアシストし、札止めは成った。(大宮慎次朗、内田快)
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